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神戸地方裁判所 昭和37年(ヨ)216号 判決 1964年1月29日

申請人 石田富子

被申請人 三菱電機株式会社

主文

申請人の本件仮処分命令の申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請人訴訟代理人は「被申請人は申請人を従業員として取扱い且つ、昭和三七年三月二一日から本案判決確定に至るまで一カ月金七、九四〇円の割合による金員を毎月二六日限り支払え、申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求め、被申請人訴訟代理人は主文同旨の裁判を求めた。

第二、申請人主張の本件仮処分申請の理由

一、申請人の地位

申請人は昭和三五年七月一八日被申請会社神戸製作所に臨時雇として採用され、同所工作部主機工作課巻線係に勤務し、昭和三七年三月二〇日当時には毎月二六日の給料日に被申請人より一カ月金七、九四〇円の平均賃金の支払を受けていたものである。

二、労働契約終了の意思表示

被申請人は昭和三七年三月二〇日申請人に対し、労働契約の期間が同日限り満了(被申請会社神戸製作所日雇ならびに臨時雇就業規則(以下単に就業規則という)第三四条第三号所定)したことを理由に、労働契約を終了させる旨の意思表示をなした。

三、契約終了の無効

しかしながら右契約終了の意思表示は次の理由により無効である。

(一)  就業規則所定の解雇(契約終了)事由の不存在

本件契約は次に述べる理由により期間の定めのない契約であるから、右就業規則所定の雇傭期間なるものはなく、その満了ということもあり得ない。従つて期間満了を理由とした契約終了の意思表示は解雇事由なくしてなされたもので無効である。

(1) 本件契約は成程形式的には当初雇傭期間が二カ月と定められてはいるが、右二カ月の期間の約定部分は無効であつて、右契約は当初から期間の定めのない契約である。即ち

被申請会社神戸製作所は昭和三六年から同三七年にかけて所属の工員約四、〇〇〇名のうち約一、〇〇〇名を臨時雇の名目で雇つているが、申請人を含むこれら臨時雇を従業員(臨時雇を除く会社所属員のすべて、以下同じ)と共に工場本来の基幹的生産活動を担当する各部門に配置し、従業員と同一内容の作業をさせ、特に従業員と区別して生産工程の補助的又は臨時的部門で就労させてはおらず、更に実際上の雇傭期間についてみても、臨時雇を特に支障のある者を除いては、二カ月経つても雇傭関係を終了させず、長期に亘つてこれを継続させ(申請人の場合は九回契約を更新)、本工昇格試験を経て従業員にさせている。これは要するに被申請人が特段の事情なき限り、臨時雇たりとも将来継続して雇傭しようという意図を持つていることを意味する。又一方申請人等臨時雇の側においても、すべて右のような労働関係の実態慣行を知り、永続雇傭という信頼と期待のもとに被申請会社のような大会社を志願入社しているのである(会社は臨時雇採用に際し、雇傭期間が二カ月であること、期間満了毎に契約が更新されるが会社は自由に契約更新拒絶ができること等を告知していないのが常態であり、申請人もまた右のことを告げられていない。因に新聞広告による募集の場合には臨時雇という文字すらなく、却つて従業員と表示され、且つ「本工採用の機会あり」と掲示されている)。してみれば、労働契約締結に際し、会社と臨時雇との間においては雇傭期間を短期間に限定する意思は実質的にはないものといわざるを得ない。にも拘らず、本件契約において二カ月の雇傭期間が定められているのは、とりもなおさず被申請人が解雇の規範的制約(法規、労働協約、就業規則等による)を免れ(尤も労働基準法第二一条による解雇予告手当は支払つている)、期間満了を口実に解雇以外の名目で無制限に実質的な解雇を行なおうとする脱法的意図を持つていることを示すものである。したがつて右雇傭期間の定めは社会的妥当性を欠き無効である。

(2) 仮に右契約が当初の二カ月間は期間の定めのあるものであつたとしても、その後更新された契約は期間の定めのないものである。

即ち、申請人は被申請人との間に当初と同一契約条件期間をもつて契約を更新したことはない。

尤も期間満了毎に被申請人より向う二カ月間期限は臨時雇として雇傭することを通知する旨の雇傭通知書なる書面は受取つたことはあるが、申請人及び被申請人間で作成される筈の雇傭契約書は被申請人の一方的に作成したもので、申請人はこれに捺印したことはなく、その捺印を他人に依頼したこともないしまたこれを見たこともないのであつて、本件の場合右二カ月後申請人が引続き労務に服し、被申請人がこれを知つて異議を述べなかつた場合に該当し、契約条件のうち期間についてはその定めがなかつたものとなる。

仮りに、当初の契約と同一契約条件期間を以つて形式上契約が更新されているとしても、当初の二カ月間は労働力の評価を行なう試採用的性質を持つから、そのような合理的理由の限度でのみ右期間の定めは有効と解せられるが、右期間満了に際して労働力の評価がなされ、その上で引続き雇傭された以上、その後更に二カ月の期間の定めを維持することは何等合理的理由がなく、社会的妥当性を欠き無効であるから、結局本件契約は二カ月経過後の昭和三五年九月一八日以後は期間の定めなき契約に入つたものである。

(二)  契約更新拒絶についての正当事由の不存在ないしは権利の濫用

仮に本件契約が実質上も期間の定めのある契約であるとしても、前述のような臨時雇の生産部門における地位と期間満了後引続き契約を更新することが常態(事実たる慣習)となつている事実と申請人が前記のように永続雇傭に対する期間を有している事実とに鑑みるとき、期間満了後契約の更新を拒絶するにつき正当の事由が必要であると考えるべきであつて、斯る正当事由なくしてなされた本件契約の更新拒絶は無効である。また申請人は入社以来勤勉誠実に就労してきたもので何らの責められるべき点はないのであるから、これが労働関係を終了させることは権利の濫用であつて無効である。

四、保全の必要性

そこで申請人は被申請人に対し、地位確認訴訟を提起すべく準備中であるが、申請人は本件契約終了により賃金の支払を拒絶され、他に財産もなく、本案判決確定まで待てば生活は危急に瀕するので、本件仮処分申請に及んだ。

第三、被申請人の答弁ならびに主張

一、申請人主張の一、二の事実は認める。

二、本件契約終了の意思表示が無効であるとの主張は争う。右意思表示は次に述べるとおり有効なものである。

(一)  就業規則所定の解雇事由不存在の主張に対して

本件契約は、当初昭和三五年七月一八日より同年九月一七日までの確定期限付の契約であり、又それ以後被申請人は申請人に対し、同一内容の新契約を九回(途中期限の一七日を二〇日延長して他の一般臨時雇の契約と一律にした)更新したが、後記(二)のような理由により昭和三七年三月二〇日期間満了による契約終了の意思表示(更新拒絶)をしたものであつて、本件契約は適法且つ有効に終了したもので、本件契約終了の理由が就業規則所定の解雇事由に該当しないという申請人の主張は理由がない。即ち

(1) 本件契約は当初より名実共に二カ月の期間の定めある契約であつて従つて、被申請人において長期雇傭の意図があるに拘らず解雇についての制約を免れる脱法的意図を以つて契約を締結したとの申請人の主張はすべて争う。

被申請人はその所属員を従業員(月給者、日給者、技能訓練生、女子見習工、嘱託)と臨時雇とに大別している。

しかして被申請人が臨時雇を大量に雇入れるに至つたのは、経済界の景気変動による企業縮少若しくは拡大の必要性が招来しても一定数の従業員の雇傭関係の安定をはかるため、企業縮少の場合直ちに雇止めをすることのできる人員を必要としたことによるもので、被申請人は臨時雇と永続的に雇傭関係を持とうとは考えていないし、又現実に臨時雇を採用するにあたり、申請人を含む臨時雇に対し、雇傭期間が二カ月であること、会社の都合によつては右期間中といえども契約を解約することがある旨を明記した契約書に捺印させて、その雇傭の臨時であることを十分に確認させているから、採用される者が永続的雇傭関係に入る意思をもつこともあり得ない。従つて被申請人は臨時雇を従業員よりも簡略な手続で採用し、特定職種の枠内で従業員より低次の補助的作業にたづさわらせ、雇傭後の教育待遇についても従業員に比し著しく差別し、雇止に際しても労働基準法第二一条に準拠した一ヵ月分の平均賃金額を解雇予告手当として支払つているのである。従つて解雇についての規範的制約を免れる意図を以つて本件契約を締結したものではない。

仮りに本件契約の二カ月という期間の定めが雇傭関係の実態からみて十分な意味を持たないとしても、雇傭期間の定めをすることは法律上禁止されていないから有効である。以上いずれの意味においても本件契約が当初から期間の定めのないものということはできない。

(2) 本件契約は当初の雇傭期間満了に際し、申請人に対し期間の定めを含む同一契約条件を以つて再雇傭する意思がある旨通知し、申請人においてその意思があるときは、期間満了後も引続き従前どおり労働力を提供し、被申請人はこれを受領しつつ雇傭契約書に捺印して(ただ記名については事務手続の簡便上被申請会社においてした)契約を更新してきたもので、その内容は従前の条件と全く同一であつて、期間の定めのないものに変つたものではない。

契約更新の際作成される雇傭契約書の授受は、契約更新の意思を明確化する方法に過ぎず、斯る文書の存否は契約成否に影響なく、又申請人が雇傭契約の継続することを希望且つ予想していたとしても、そのことを以つて更新後の契約の二カ月という期間の約定が法律上無意味となるものではなく、又本契約の当初の二カ月間を以つて労働力の評価を行う試採用的性質をもつものということもできず、最初の更新後の期間の定めを以つて合理的理由がないとか、社会的妥当性を欠くものということはできない。

従つて、以上のいかなる意味においても本件契約が更新されることによつて期間の定めのない契約になつたということもできない。

(二)  契約更新拒絶についての正当事由の不存在ないしは権利の濫用の主張に対して

一般に臨時工を雇傭する短期の契約において特段の意思表示なき限り契約が順次更新されていくと解せられるとしても、それは契約関係を終了さすには更新拒絶の意思表示が必要だというに止り、更にこれをなすにつき正当事由が必要だという根拠は憲法、労働関係法令、その他いかなる法規に徴するも見出し得ない。仮に正当事由が必要であるとしても被申請人としては契約の更新を拒絶するにつき次のような正当事由がある。即ち昭和三七年三月当時被申請人等重電機各社とも景気が大きく後退したため、人員の縮少、残業時間の削減等不況対策に努力を払い、殊に被申請会社神戸製作所においては昭和三七年二月二一日から女子臨時雇の採用を全面的に停止していたところ、申請人の所属する被申請会社神戸製作所工作部主機工作課巻線係でも作業量が著るしく減少したので、同係は過剰人員解消のため他課係へ応援作業に出す努力を重ね、申請人をもまたその一人として主機工作課木工荷造係の応援作業に派遣し、購入木材の受入、払出伝票作成等の仕事に当らせたが、同人は珠算が不得手であり、偶々珠算のできる新卒者が同係に配属されることになつたので、再び申請人を巻線係に戻そうとしたところ、同係もあいかわらず人員過剰で受入れる余地がないので、他課係へ応援作業の必要の有無を問合せたけれども、適当な引取先がなく諸般の事情から申請人の雇止めは止むを得ないと判断し、遂に同年三月二〇日被申請人は申請人及び他二名の女子臨時雇に対し、雇傭期間満了による契約終了の意思表示をなしたのである。

従つて又、右のような事情がある以上被申請人の措つた措置は権利の濫用にもならない。

三、申請人主張の保全の必要性は争う。

従つて本件仮処分命令の申請は却下さるべきである。

第四、当事者双方提出の疎明ならびにその認否<省略>

理由

第一、申請人の地位及び申請人に対する労働契約終了の意思表示

申請人が昭和三五年七月一八日から被申請会社神戸製作所工作部主機工作課巻線係に勤務する臨時雇であり、昭和三七年三月二〇日当時申請人主張のような賃金の支払を受けていたこと、被申請人が同日申請人に対し、就業規則所定の労働契約の期間満了を理由に同日限り契約を終了する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。

第二、契約終了の意思表示の効力の有無

(一)  本件労働契約が雇傭期間の定めのないものであるとの主張に対する判断

(1)  本件契約が当初から期間の定めのないものであつたかどうかの考察

本件契約が形式上雇傭期間を二カ月と定められていることは当事者間に争がないが、間題は申請人主張のような実質的労働関係が右期間の約定部分を無効ならしめるかどうかである。

そもそも所謂臨時工なるものの存在理由は種々あるも、企業者の側において専ら解雇(雇止め)を容易ならしむる意図のみを以て雇入れている臨時工なれば、その実質が本工と同視すべきものである以上、雇傭期間についても、これと異る取扱いは許されないものというべきであるが、労働契約に期間を定めるにつき客観的に何らかの合理性、必要性(仕事の臨時性)が肯定されれば、結果的には解雇の制限を潜脱することになつても、その期間についての約定を無効ならしめることができない。

これを、経済界の景気変動即ち好況の時、不況に備えて労働関係を臨時的なものとして期間を定めて雇傭したものについて、その必要性と合理性が認められるかについてみるのにおよそ私企業にはすべて大なり小なり景気変動が伴うものであるから、そのことのみを以つて漠然と全面的に右合理性を認めることができないが、他面仕事の臨時性をそれ自体の性質から来るもの(例えば季節的労働、特定物の製作)に限定し、前記のようなものについては全く臨時性を肯定しないという見解も妥当ではない。要は当該企業の臨時工を雇入れる動機事情、該企業の性格、臨時工のもつ仕事の内容、その雇傭継続期間その他臨時工が当該労働関係の継続を期待する合理的事情等を綜合して個別的具体的に判断すべきものである。

このような観点に立つて考察するのに、証人野元末春、同国田美知子、同斗内正雄、同安達賢一の各証言及び申請人本人尋問の結果を綜合すると、被申請会社の臨時雇は会社の技術的生産部門に配置され、従業員と共に同種の作業に従事し特に区別されて異つた作業部門に置かれるようなことはないこと、尤も臨時雇が従業員に比し事実上低次的な作業に就くことも多いが、それは従業員との経験上の差からくることによるもので臨時雇であることの故をもつてなされるのではないこと、申請人についていえば、申請人は昭和三七年の初め頃まで前記巻線係において、工業用発電機の小型電機子コイルのテーピング作業(電機子コイルに絶縁物を巻付ける作業でその巻方に上巻、下巻、バインド巻がある)のうち主として最も簡単な下巻を担当していたが、特に臨時雇の故を以つて作業上従業員と区別されるようなことはなかつたこと、また臨時雇の実際上の雇傭継続期間についてみても大部分のものについて契約の更新がなされ、なかには一〇年位もこれを継続してその技術を会社から高く買われているものもあること(申請人の場合の雇傭継続期間が一年八月であることは当事者間に争がない)が疎明される。

しかしながら他方成立に争のない甲第七号証の一の一乃至一二、同号証の二の一乃至四、乙第二号証の一乃至一五、同第五号証の一、二、証人馬場崎哲、同安達賢一、同吉本信之、同永野達雄の各証言及び申請人本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、

被申請会社神戸製作所は製鉄会社、化学工業会社等に納入する直交流発電機、電力会社等に納入する水力、火力発電機等所謂重電機の製作に当つていて、その企業の安定と向上のため常時一定数の労働力を確保すべく従業員(内訳は終身制の従業員並にこれを予定した技能訓練生及び女子見習工)を置いているのであるが、更にそれ以外に臨時雇なるものを雇傭している理由は、同製作所が製作している製品が前述のようなものである関係上、出注先からの注文によつて生産をする所謂オーダーメード(個別受注生産方式)の形態をとり、所謂弱電気関係の企業のような規格にはまつた製品の量産、見込生産を行つていないため、特定の出注先の需要の大小によりその仕事量に著しい影響を受けるものであり、現に昭和二四年頃大きな不況に見舞われ当時同製作所に所属していた従業員の一割にも当る約二〇〇名の従業員の解雇を余儀なくされるに至つたことがあり、その後企業運営の一環としてこれが防止策を苦慮していたところ、昭和二五年、二六年頃朝鮮動乱に伴う景気上昇のため企業拡大の必要が生じたので、向後景気下降があつても従業員の雇傭関係を安定させうるように、大量に雇傭期間を限定した臨時雇を採用し企業に弾力性を持たせるようにしたことによるもので、爾来景気の変動がある毎にその数を増減させていること、これを申請人の雇入れから雇止めまでの事情についてみるのに、申請人を雇入れた当時は所謂経済成長ブームに乗つて景気上昇の途にあつて、重電機業界も未曽有の受注があり、被申請会社も設備拡大と従業員の増員を行い、臨時雇の雇入れも活発であつたが、昭和三六年から同三七年にかけて政府が経済成長抑制のための金融引締政策として設備投資の抑制等の景気調整を図つたため、産業界の設備投資が減少し、被申請会社神戸製作所に対する各産業会社から注文の取消や製品納期の繰延が続出し、同製作所において昭和三七年三月頃まで製品月産三〇〇台程度であつたのが同年三月の見通しでは同年七月以後一五〇台に減ることになり、これは早い工程の巻線作業に直ちに影響して、同年三月頃から作業の減少をもたらし、これがため同三六年暮頃一、一〇〇名台であつた臨時雇も漸次雇止めをなし、(昭和三八年三月における臨時雇の数は五〇〇名台となる)また女子見習工は定期的に採用を続けているが、同三七年二月末以降女子臨時雇の採用を停止すると共に、同三七年一月初め頃前記巻線係の臨時雇のうち約三分の一の者を他の課係へ応援作業に出し、申請人を同年三月二〇日女子見習工が入社するまでの間木工荷造係へ出したこと、臨時雇はその大部分が契約を更新され、その雇傭継続期間は、極めて例外的に一〇年に及ぶ者もあることは前述のとおりであるが、三年、五年に達する者も少く、大体において二年、早い者は一年位で本工採用試験に合格しているが、これはあくまで採用試験であつて、昇格試験ではないから、制度として、試験制度を設けているのではなく、ただ近年は一年に一、二回採用試験を行つて本工に採用することにしていること。臨時雇を募集するにあたり新聞広告や職業安定所においては、その性質上臨時雇から本工採用の機会があるというようなことを強調する傾向もあるが、会社で現実に採用する際には一般に臨時雇に対し、臨時雇であつて二カ月の期間の定めがあり、必要に応じ契約を更新するが、反面会社の都合により期間中といえども解約することがある旨を告げており、雇われる側においても、臨時雇であることを認識し、本工採用の希望を持つものは多いが、臨時雇のままで長期雇傭関係を継続しうることを期待していないこと。申請人も以前町工場の臨時工をしていたのでこれが性質を知つており、被申請会社に入るときも臨時雇であることを認識していたこと。

以上の事実が疎明され、右認定を左右するに足る疎明はない。

してみると被申請会社が申請人を雇傭するについて雇傭期間を定める必要性と合理性はあながち否定し去ることはできず、被申請人において厳密に雇傭期間を二カ月と予定したものではなく、これがため期間を定めることは結果的に解雇の制約を潜脱することにならないとはいえないが、専ら解雇の規範的制約を免れるために期間を定めたものとは認められないから、結局本件契約の当初の期間の約定部分の効力を否定することはできず、右契約は期間の定めのないものということはできない。

(2)  契約更新後期間の定めのないものになつたかどうかの考察

証人馬場崎哲、同吉本信之の各証言及びこれによつて申請人の記名捺印部分を除き真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし一〇、成立に争のない乙第四号証、申請人本人尋問の結果によると、被申請会社が臨時雇との雇傭契約を更新するについては、雇傭期間満了の二、三日前に臨時雇に対し、期間満了の日より向う二カ月間期間付臨時雇として雇傭することを通知する旨の雇傭通知書を送付し、臨時雇において特段の意思表示がない限り、右期間満了後も従前どおり労務に従事させると共に、被申請会社に備付けてある雇傭契約書に記名押印させて、その都度契約を締結する形式をとつていること、ただ事務の簡便上臨時雇の記名は被申請会社の労務担当者においてこれをなし、本人又は日課担当者が捺印していること、申請人の場合も右一般の例と全く同様であつて、ただ雇傭契約書には、申請人の印を預つている日課担当者が捺印していたことが疎明され、右によれば、当初の契約と同一条件を以つて契約が順次更新されていたことが明らかである。従つて雇傭契約書なるものは事実関係を明確にする証拠方法に過ぎず、これが存在はその成立要件をなすものではないから、申請人の契約更新後の各契約書の認識の有無は契約の成否に消長を来すものではなく、更新後の契約の期間の約定部分にも影響を及ぼさないというべきである。

又本件契約が試用工契約の性質を持つことについての疎明はなく、その他更新後の期間の定めを無意味ならしめる事由は見当らず、却つて前記認定事実に徴すれば、本件においては当事者間において、特に契約更新の意思表示がない場合でも、更新拒絶の意思表示がない限り最初の契約と同一内容(期間の約定についても)の契約に順次更新されていくという暗黙の合意が成立していたものと認めるのが妥当である。

従つて本件契約が更新されることにより期間の定めのないものとなつたということはできず、期間の定めのないことを前提とする申請人の主張は理由がない。

(二)契約更新拒絶についての正当事由の不存在ないしは権利の濫用の主張についての判断

前述のように同一内容の契約が反覆更新されている場合、契約を終了さすには特に更新拒絶の意思表示が必要であるが、これをなすにつき一般に正当事由の存在が必要とするものとは解せられない。尤も長期間に亘り契約が更新されている場合雇傭されている者の期待権的地位は或る程度尊重されなければならないが、この期待権的地位が永続雇傭に対する合理性を有する場合は格別であるが、前述のように臨時工が本工になるには新たに採用試験を経なければならないのであつて、訓練生や見習工のように本工として養成されたものとは異り、当然本工昇格を期待し得る地位にいるわけではない。従つてその期待権は二カ月の契約更新に対するものに過ぎないものと言うべく、正当事由を必要ならしめる根拠とはなし難い。

本件についてみると前掲各疎明によると前記認定のほか、被申請人主張の二の(二)記載のような事実が疎明されるので、申請人が就業以来真面目に勤務していたとしても、被申請人のなした契約更新拒絶の意思表示が権利の濫用になると認めることは困難であり、他にこれを認めるに足る疎明はない。尤も、被申請会社神戸製作所では、昭和三七年三月二一日にも中学新卒業者から女子見習工を多数採用していることは前述のとおりであるが、証人馬場崎哲、同安達賢一の各証言によると、右は例年どおり昭和三六年八月から職業安定所を通じて募集を始め、翌三七年正月早々に選考試験を行い直ちに採否を決定して、通知したもので、時期的にその取消が困難であり(申請人の雇止めを決定したのは同年三月中旬である)又熟練工として技能の伝承向上をはかるために女子見習工の採用が必要であつたことが疎明されるから、申請人等臨時雇の雇傭を継続するため女子見習工の採用をそれだけ取止めることもできなかつたものといわなければならない。

そうだとすればこれらの点に関する申請人の主張はいずれも理由がなく、右契約更新拒絶の意思表示は有効だといわなければならない。

第三、結論

してみると本件契約終了の意思表示の無効を前提とする申請人の本件仮処分命令の申請はその余の判断を俟つまでもなく、失当として却下すべきものであるから、申請費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄 上田次郎 芥川具正)

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